マンション防音は万能ではない

 ここでは、想定どおりの天井防音が出来なかった案件について、触れたいと思います。同業者にはウェブサイトに公表しないほうがいいのでは?と言われましたが、私は防音は万能ではないこと、マンションのリフォーム工事ではリスクがあることを、あえて伝えたいと思います。
 それゆえ、可能性検討や防音仕様は強化しているのです。日々、課題を追求しながら、レベルアップを図っています。

 天井防音は私自身が天井騒音の被害者ですので、難しさや苦しさは十分理解しています。しかし、安易な防音工事はお奨めできません。

 防音職人は、多くの天井防音を成功させてきた一方で、想定外の問題、構造的な問題があり十分な防音効果を出せなかった現場があります。

 2004年の開業から現在完了している案件(2011年5月現在)について、6件ありました。以下、その概要です。
*全て分譲マンションです。

◇躯体にクラックが入り、ねじれ・たわみが発生している件
*低音のうち、63Hz~250Hzについては想定どおり低減できたが、31.5Hzの低周波と500Hzの音が低減できなかった。

◇躯体のスラブの区画面積が大規模で小梁がなく、剛性が比較的低く、上階の床の問題やマナーの問題で、低周波騒音が目立っていた件
*63Hz以下の低周波が低減できなかった。これ以外の周波数の音は低減できた。

◇躯体のスラブの区画が大規模で小梁がなく、剛性が比較的低く、低周波騒音が目立っていた件
*重量音が十分には低減できなかった。これ以外の周波数の音は低減できた。
*コンクリート強度や剛性不足など構造的な問題が懸念されるが調査はできなかった。

◇梁にダクト配管が貫通し、居室天井裏のほぼ中央部を横切っていたため、配管などの制約で天井が下げられないうえに、ダクト配管から振動騒音が伝播していた件
*図面やリフォーム履歴がなく解体するまで予見できなかった。
*廊下からつながるダクト配管を経由して響く振動騒音を軽減できなかった。
*騒音測定を実施させてもらえなかったため、原因の分析ができなかった。

◇躯体に亀裂が入り、剛性が十分に確保できていなかったことが、下地解体及び大規模地震の直後に判明した件
*振動騒音について効果が余り体感できなかった。
*構造的な劣化が問題と考えられるが、工事まえには予見できなかった。

◇既存の天井を下げることについて了解されなかった件
*吸音材を十分に充填できずに、振動音を十分に減衰できなかった。
*天井を下げれない場合のリスク説明など、依頼者を説得できなかったことが反省点として残る。

以上の6件については、物件の資産的価値や今後の大規模改修の必要性などに直結する要因が含まれているためウェブ上での事例公開はできません。
 マンションのリフォームは、内装を解体するまで問題が予見できず、共用部の問題は区分所有者個人の了解だけでは調査ができないという壁があり、天井防音にとって最大の阻害要因になっています。

 成功事例については、比較的築年数の古い物件でも、躯体等構造的な問題が無い居室の天井防音は大半が成功しています。ただし、上記のような問題が6件あったため、状況によっては天井防音の案件を見送る場合があります。

 また、既製品及び特注品の防音材が原料などの高騰でコストが嵩むなど、費用対効果の面で制約が大きくなっています。
 もちろん、リスクをご了承のうえで、お受けする場合もありますので、ご相談ください。

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